エナメル質形成不全症は治療が必要になる前の予防が大切!
監修:歯科医師 長谷川雄士
何らかの原因で歯のエナメル質がうまく形成されず、生まれつき表面が白や黄色、茶色になっている状態を、「エナメル質形成不全症」と言います。
見た目が気になる以外にも、歯表面を覆うエナメル質が少ないことで虫歯になりやすい、という特徴があります。そのため、日々のケアでの虫歯予防が非常に重要です。
今回は、エナメル質形成不全症の原因やセルフチェック方法、治療方法についてお伝えします。
エナメル質形成不全症について
歯の構造は、一番外側(目に見える部分)が「エナメル質」、その内部が「象牙質」、さらに内部が「歯の神経」となっています。
エナメル質は一番硬い組織で、内側にある比較的軟らかい象牙質や神経を保護する役割も担っています。
しかし、このエナメル質が何らかの原因でうまく形成されないことがあります。その状態を「エナメル質形成不全」と呼びます。
エナメル質形成不全症の場合、表面のエナメル質が形成されないことで内部の象牙質が透けて、歯が部分的に黄~茶色っぽく見えます。
軽度の状態であれば、白〜灰色の斑点状に見えることもあります。乳歯と永久歯どちらにも起こる可能性があります。
エナメル質形成不全症の場合、虫歯が進行しやすいため注意が必要です。
エナメル質形成不全症を引き起こす原因とは?
エナメル質形成不全症の主な原因として、以下のようなものが考えられます。
▶遺伝
両親あるいは祖父母に「エナメル質形成不全症の歯」がある場合、子供や孫に遺伝することがあります。
▶栄養不足
歯が形成する過程で必要な栄養素が足りないことで、エナメル質形成不全が起こることがあります。
歯を形成するのに必要な栄養素は、主にカルシウムです。他にも、ビタミン類(ビタミンA、C、D)はカルシウムの吸収を促し、リンはカルシウムと一緒になって硬い組織を形成する役割があります。
成長期の幼児や、妊娠中の母体にこれらの栄養素が足りてないと、エナメル質形成不全だけでなく、骨の発育にも影響を及ぼすことがあります。
▶外傷
歯が形成していく過程で、転ぶ、ぶつかるなどといった大きな衝撃を受けるとエナメル質形成不全が引き起こされることがあります。
▶薬の服用
テトラサイクリン系抗生物質の長期使用や、フッ化物(フッ素)の過剰摂取(歯のフッ素症)により引き起こされることがあります。
▶病気や感染症による高熱
歯が形成される時期に高熱が出た場合、エナメル質の形成を担うエナメル芽細胞の働きが抑えられてしまい、うまくエナメル質が形成されないことがあります。
また、妊娠中に母親が感染症にかかると、お腹の中の胎児の歯の形成や発育に影響を及ぼし、エナメル質形成不全を起こす可能性があります。
エナメル質形成不全症は虫歯になるリスクが高い!?
エナメル質形成不全症は、歯が形成する過程で何らかの障害によりエナメル質がうまく形成されないことで起こります。エナメル質の層が薄くなることで溝やくぼみができたり、エナメル質の層は正常でも、白い斑点ができ、その表面がザラついていたりすることもあります。
内部の象牙質が透けていることで歯質自体が弱く、また、表面がザラついていることで汚れが付着しやすい状態になっています。そのため、エナメル質形成不全症の歯は虫歯になりやすく、虫歯が進行しやすいです。
エナメル質形成不全症の特徴を知ってセルフチェック!
ご自身やお子さんのお口の中を観察し、エナメル質形成不全の歯がないか一度チェックしてみましょう!色や表面の状態が特徴的なので気づくことができるケースが多いです。機能的な特徴も知り、予防に取り組んでみましょう。
歯の「色」や「表面の状態」をチェック
◎色
歯の一部が白あるいは黄色や茶色くなっています。斑点状になっていることもあります。
◎表面の状態
正常な歯の表面は触るとツルッとしています。しかし、エナメル質形成不全症の場合は、歯の表面が少しザラザラして粗造な状態になっています。
◎欠け
エナメル質の層が薄く、歯質自体が弱くなっているため、歯と歯が咬み合う衝撃などによって欠けていることがあります。舌で触ってみて、尖っていたり引っかかったりするような感覚があれば、歯科医院で診てもらいましょう。
機能的な特徴について
●虫歯になりやすい
表面が少しザラザラしていることで、プラーク(歯垢)が付着しやすく、虫歯になりやすいです。
●知覚過敏
冷たい、熱いなどの刺激でしみるケースが多いです。砂糖を多く含む食品でも同じような症状が出たり、歯ブラシの毛先が当たるだけでも痛みを感じたりすることもあります。
●治療がしにくい
正常な状態の歯に比べて、詰め物など歯を修復する歯科材料が接着しにくいです。治療をしても修復材料がとれやすい場合があります。
●審美面
前歯に症状が現れ、白い斑点状になったり茶色っぽくなったりすると、口元へのコンプレックスに繋がるかもしれません。
エナメル質形成不全症を改善する方法
エナメル質形成不全症の治療法は、年齢や歯の部位、症状の大きさなどによって異なります。
主に3つの治療法についてご紹介します。
➀フッ素塗布
小さく斑点状に白くなっているなど、軽度の症状であればフッ素塗布を行います。
フッ素には、虫歯菌の働きを弱らせる、歯の再石灰化、歯質の強化などといった働きがあります。
歯科専用の高濃度フッ素ジェル以外にも、自宅で使用できる歯磨き粉、歯磨きジェル、洗口液などが市販されています。
歯科医院にて、専用の高濃度フッ素塗布を3か月に1回くらいの頻度で行いご自宅での毎日の歯磨きでフッ素入りの歯磨き粉などを使用していただくと効果的です。
②レジンによる修復治療
エナメル質形成不全の範囲が広い場合や、欠けている場合、コンポジットレジンと呼ばれる歯科専用材料を詰めて歯を修復します。
表面を薄く削り、表面処理を行った上でレジンを流し入れて、専用の光を当てて硬化させます。歯の本数にもよりますが、多くの場合は1回の治療で完了します。
③被せ物の装着
前歯がエナメル質形成不全だと、目立ちやすいため見た目を気にされる方が多いです。また、範囲が大きいと、コンポジットレジンで治療を行っても改善しにくいことがあります。そのような場合は、被せ物(クラウン)を装着する治療を行います。
歯を削って形を整え、型どりを行い、被せ物を作製します。作製期間は2~3週間ほどで、通院回数は少なくて2回必要です。被せ物が完成するまでは仮歯を装着するので、普段通りにお過ごしいただけます。
セラミックの被せ物だと、色みの種類が多いためご自身の歯の色に合うものを選びやすいです。また、透明感があってより天然歯に近づけることができ、審美面で優れています。(保険適用外のため、費用が高額となります)
材質は異なりますが、保険診療で治療することも可能です。
エナメル質形成不全歯に虫歯ができた時の治療方法
虫歯の進行具合によって治療法が異なります。
○初期虫歯
歯のエナメル質表面のみが虫歯になってしまった場合は、まだ初期のため、フッ素塗布により虫歯の進行を防いだり、遅らせたりすることができます。
歯科医院での定期的なフッ素塗布と、ご自宅での毎日の歯磨きにフッ素入りの歯磨き剤などを取り入れ、定期検診で経過観察を行いましょう。
○進行した虫歯
穴が開いたり欠けたりしている場合は、虫歯が歯の内部に進行している可能性があります。しみる、痛みなどの症状も伴うことがあるため、レジン修復にて治療を行います。虫歯の範囲が大きい場合は、被せ物(クラウン)で治療を行います。
レジン修復の場合は1回で治療完了ですが、被せ物を作製する場合は少なくても2回(期間は2~3週間)必要です。
虫歯治療が必要になる前に日々のケアで虫歯予防対策を
エナメル質形成不全症の歯は虫歯になりやすく、予防のためには日々のご自宅でのケアが欠かせません。
◎仕上げ磨きでより丁寧にケアを!
お子さんの場合、全ての歯が永久歯に生え換わるまで(12歳頃まで)は親が仕上げ磨きをすることが理想です。
乳歯や生え始めの永久歯はエナメル質が未熟で虫歯になりやすく、また、歯の生え換わりの時期は、生えかけの歯やまだ生えていない歯があるため虫歯のリスクが高いからです。
お子さんが恥ずかしがって嫌がる場合は、中学年くらいまでは仕上げ磨きを行い、高学年になったら定期的にお口の中のチェックをするようにしましょう。
◎毎日のケアにフッ素を活用してみましょう!
フッ素入りの歯磨き粉を使用すると、歯自体にフッ素が取り込まれることで歯の質が強化され、虫歯菌の働きを抑えることができます。
また、ご自宅でのフッ素入りの歯磨き粉の使用とともに、歯科医院で定期的に歯科専用の高濃度フッ素(9000ppm)塗布を受けることで、虫歯予防効果がさらに得られます。
※市販の歯磨き粉には「高濃度フッ素配合歯磨き粉」があり、含まれるフッ素濃度は1450ppmくらいのものあります。6歳以上であれば、高濃度フッ素配合のものの方が虫歯予防効果が高いためおすすめです。ただし、高濃度フッ素配合歯磨き粉は、小さいお子さんへの使用には注意が必要です。年齢に応じてフッ素濃度を選びましょう。
★4学会合同のフッ化物配合歯磨剤の推奨される利用方法(2023年1月)
(日本口腔衛生学会・日本小児歯科学会・日本歯科保存学会・日本老年歯科医学会)
<歯が生えてから2歳>
〇使用量:米粒程度(1~2mm程度)
〇フッ化物濃度:1000ppmF(日本の製品を踏まえ900~1000ppm)
〇使用方法:
・就寝前を含めて1日2回歯磨きを行う。
・1000ppmFの歯磨剤をごく少量使用する。歯磨き後にティッシュなどで歯磨剤を軽く拭き取ってもよい。
・歯磨剤は子供の手の届かないところに保管する。
・歯磨きについて専門家のアドバイスを受ける。
<3~5歳>
〇使用量:グリンピース程度(5mm程度)
〇フッ化物濃度:1000ppmF(日本の製品を踏まえ900~1000ppmF)
〇使用方法:
・就寝前を含めて1日2回歯磨きを行う
・歯磨きの後は、歯磨剤を軽くはきだす。うがいをする場合は少量の水で1回のみとする。
・子供が歯ブラシに適切な量をつけられない場合は保護者が歯磨剤を出す。
<6歳~成人・高齢者>
〇使用量:歯ブラシ全体(1.5cm~2cm程度)
〇フッ化物濃度:1500ppmF(日本の製品を踏まえ1400~1500ppmF)
〇使用方法:
・就寝前を含めて1日2回歯磨きを行う。うがいする場合は少量の水で1回のみとする。
・チタン製歯科材料が使用されていても(インプラントなど)、歯がある場合はフッ化物配合歯磨剤を使用する。
※引用:日本小児歯科学会 | 「フッ化物配合歯磨剤の推奨される利用方法について」4学会(日本小児歯科学会・日本口腔衛生学会・日本歯科保存学会・日本老年歯科医学会)合同の提言が発表されました。
歯の状態で気になることがあれば当院へご相談ください!
エナメル質形成不全症の歯は、歯の表面を覆うエナメル質が少ないため虫歯になりやすいです。
しかし、多くのケースは軽度の状態で、毎日丁寧なケアを行っていればあまり心配はいりません。
まずは、歯科医院で相談し、正しいケア方法を教えてもらいましょう。定期検診で経過観察しながら、高濃度フッ素塗布を受けることも虫歯予防に効果的です。
当院では、無料カウンセリングも行なっております。見た目やしみる症状など、歯の状態で気になることがあればお気軽にご相談ください。
監修者プロフィール
- 資格・所属学会
- (社)日本口腔インプラント学会
- 愛知インプラントセンター
- 日本歯科医師会
- 静岡県歯科医師会
- 静岡市歯科医師会