総入れ歯がよく外れる方へ。原因と対策について詳しく解説します
監修:歯科医師 長谷川雄士
「話していると総入れ歯が外れる」「総入れ歯だとご飯がうまく噛めない」——このような総入れ歯のお悩みを抱えていませんか?
実は、入れ歯が外れる原因は一つではありません。お口の状態の変化や咬み合わせの不具合、入れ歯そのものの問題など、複数の要素が関係しています。
この記事では、総入れ歯が外れる主な原因とその解決策、そして、今お使いの入れ歯を快適に使い続けるためのヒントをお伝えしていきます。
総入れ歯の仕組みと「吸着力」
総入れ歯とは、上下どちらかの歯をすべて失った場合に使用することになる補綴装置です。
上は口蓋(上顎の天井部分)の大部分を覆い、下は舌の動きを妨げないように設計されます。
その安定性の鍵を握るのが「吸着力」です。
入れ歯は、口内の粘膜に吸着させて固定します。入れ歯と粘膜の間にできる空気の薄い層によってしっかりと吸着し、ぴったりフィットしていれば、食事や会話の時でも外れることなく使用できます。
しかし、この吸着力は、お口の形や入れ歯の状態に大きく左右されるため、条件が崩れると外れやすくなります。
その条件が崩れる原因について、次項でお伝えしていきます。
総入れ歯が外れる主な原因とは?
1. 入れ歯と顎の形が合っていない
入れ歯が外れる最も大きな原因は、入れ歯と顎の形の「不適合」です。時間の経過とともに、歯茎や顎の骨は痩せていきます。そのため、入れ歯を作った当初は合っていても、、徐々に入れ歯と歯茎の間に隙間ができて吸着力が弱まることで外れやすくなってしまうのです。
また、製作時の型取りの精度が低い場合も、お口の動きに入れ歯がついてこれず、外れやすいことが多いです。
2. 咬み合わせのずれ
上下の歯が均等に咬み合っていないと、咀嚼時に入れ歯が片側にズレやすくなります。噛む力が偏ると浮き上がるように外れることもあります。
人工歯の位置や高さが合っていないことも、咬み合わせの不具合に繋がります。
3. 入れ歯の劣化・変形
入れ歯は長年使っていると摩耗や変形を起こし、形状が崩れていきます。これにより吸着が不安定になり、外れやすさや違和感に繋がります。
特に保険診療で製作するレジン床義歯は、耐久性が高くないため、数年でフィット感が落ちることが少なくありません。
4. 唾液の分泌量の減少
意外と知られていませんが、唾液は入れ歯の吸着を助ける重要な存在です。唾液の量が減ると滑りが悪くなり、ズレやすくなります。
唾液は、加齢や薬の副作用、全身疾患が原因で減少し、口腔乾燥症の対策が必要になるケースもあります。
外れない総入れ歯にするための対策
1. 精密な型取りと咬み合わせ調整
快適な入れ歯製作には、高精度なお口の型取りが欠かせません。さらに、咬み合わせの微調整を重ねていくことで、どこか一部だけに力がかかることを防ぎ、ズレを防ぐことができます。
2. 入れ歯の素材と製法の見直し
一般的に、保険診療の入れ歯に比べて、自費診療の入れ歯は素材や製作方法が優れています。そのため、変形・劣化が起こりにくい入れ歯の製作が可能で、長く快適にお使いいただけるでしょう。
特に、CAD/CAMで設計・削り出しを行うシステムでは、従来のような「製作中の収縮」が起きず、非常に精密で外れにくい入れ歯を提供できます。
3. 定期的な調整・メンテナンス
お口の状態は日々変化しています。総入れ歯を使用されている場合、年に1〜2回は歯科医院での調整をおすすめします。
顎が痩せてきた場合には、「リライニング」という入れ歯の内面に材料を追加してフィット感を回復させる処置が有効です。
入れ歯が外れにくくなる選択肢も
自費診療の入れ歯にはいくつか選択肢があります。お口の中の状態によって選択できる治療が異なりますので、歯科医師と相談のうえで検討されると良いでしょう。
<ノンクラスプ義歯(バルプラスト)>
金属バネのない見た目に優れた入れ歯です。軽くて柔らかく、しなやかにフィットするため外れにくいのが特長です。金属アレルギーの心配もありません。
<インプラントオーバーデンチャー>
数本のインプラントで入れ歯をマグネットやアタッチメントで固定する方法です。ズレや外れの心配がほとんどなく、快適な装着感が得られます。
<オールオン4(All-on-4)>
片顎に4本のインプラントを埋め込み、入れ歯を固定式にする治療です。しっかり噛めてズレず、入れ歯というより「新しい歯」としての感覚に近い安定性があります。
総入れ歯は作り方とメインテナンスが重要
総入れ歯が外れるのは、決して珍しいことではありません。しかし、その原因を突き止め、適切な対策を取れば、総入れ歯が外れない快適な生活を取り戻すことができます。
合わない総入れ歯を使用し続けると、粘膜の痛みや口内炎を発症する可能性があります。また、何より食事や会話中のストレスが大きく、日々の楽しみが減ってしまうでしょう。
総入れ歯は、型取りや咬み合わせ、素材や製法によって、安定性が大きく向上します。保険外の選択肢やインプラント併用治療で、さらなる快適さも目指せます。
総入れ歯が合わないことで悩んでいる方は、我慢せず、ぜひ一度歯科医院へご相談ください。あなたのお口に最適な総入れ歯で、快適な毎日を取り戻しましょう。
監修者プロフィール
- 資格・所属学会
- (社)日本口腔インプラント学会
- 愛知インプラントセンター
- 日本歯科医師会
- 静岡県歯科医師会
- 静岡市歯科医師会