歯肉炎と歯周病の違いとは?それぞれの症状と対処法を知ろう
監修:歯科医師 長谷川雄士
歯肉炎と歯周病、この二つの違いを知っていますか?この記事では、歯肉炎がどのような段階を追って歯周病に進行するかを詳しく解説し、早期発見の重要性と適切なケア方法についてお伝えします。定期的な歯科健診の役割や日常のブラッシングについても正しい知識を身に着けて、歯の健康を守りましょう。
【目次】
1.歯肉炎は歯周病の初期段階
1-1歯肉炎から歯周炎への進行メカニズム
2.歯肉炎と歯周炎の症状の違いとは?
2-1歯肉炎の症状(歯周病初期)
2-2歯周炎の症状(歯周病中等度~重度)
3.歯肉炎を進行させないことが歯周病予防の鍵
4.自宅でのケアと併せて定期的なクリーニングを
歯肉炎は歯周病の初期段階
歯肉炎は、歯周病の初期段階です。歯肉炎の主な原因は歯ブラシが届きにくい部分に残ったプラークの蓄積によるものです。日々のブラッシングで完全に除去しきれないプラークが少しずつ蓄積していくことで、そのプラーク内に細菌が増殖してしまいます。これらの細菌により細菌感染が引き起こされることで歯茎に炎症が生じ、その結果、歯茎は赤く腫れ、出血しやすくなります。この状態が歯肉炎です。歯肉炎に気づかず放置してしまうと、さらに悪化し歯周病へ進行する可能性があります。そのため、毎日の丁寧な歯磨きと定期的な歯科医院でのチェックが非常に重要といえます。
歯肉炎から歯周炎への進行メカニズム
歯肉炎は、細菌感染によって歯茎が炎症を起こしている状態を言います。この段階では、炎症範囲は歯茎にとどまっていますが、適切な処置を行わずそのまま放置してしまうと状態が悪化することがあります。プラークが歯と歯茎の境目に蓄積していくと、唾液や血液成分と結合して歯石に変わります。歯石の表面はザラザラしており、内部はスポンジの様に隙間が多く存在するため、さらにプラークが蓄積しやすくなります。そうして歯と歯茎の間に細菌が増殖し、歯茎が炎症を起こしやすくなります。これらのことが原因となって、歯と歯茎の間にある歯周ポケットが深くなり、さらに汚れが溜まりやすい状態になります。
歯周ポケットが深くなると、細菌が深い部分に侵入しやすくなります。そうすると、炎症は歯茎にとどまらず、歯茎内部に存在する歯を支える骨(歯槽骨:しそうこつ)にまで拡がり、結果、骨が溶けてしまう歯周病へと進行します。
歯肉炎と歯周炎の症状の違いとは?
歯肉炎と歯周炎の違いは、炎症が歯茎のみにとどまっているか、あるいは歯を支える骨(歯槽骨)にまで拡がっているかにあります。以下にそれぞれの主な症状についてご説明します。
歯肉炎の症状(歯周病初期)
歯肉炎の主な原因はプラークです。プラーク中には細菌が多く存在するので、「細菌の塊」とも呼ばれます。プラークの付着により細菌が増殖して細菌感染し、歯茎に炎症が起こります。健康な歯茎はピンク色ですが、歯肉炎になると歯茎が腫れ、赤みが強くなります。
・歯茎の状態
歯茎が健康なときはピンク色ですが、歯肉炎になると赤く腫れることがあります。健康な歯茎は引き締まっていますが、腫れている歯茎は少しプクッと膨らんでいます。
・出血
炎症により赤く腫れた歯茎は、ブラッシングや固いものを噛む時、デンタルフロスを使用する時など、些細な刺激で出血しやすくなります。歯ブラシの毛が出血により一部分でも赤く染まっている場合は、歯茎が炎症を起こしている可能性が高いです。
・痛みや不快感
歯茎が腫れると、歯磨きする時に痛みや違和感があることが多いです。それが原因で歯磨きが不十分になってしまうと、さらに腫れが強くなり痛みを伴いやすくなります。多少痛みがあっても軟らかめの歯ブラシなどで歯磨きを続けることが大切です。歯茎に痛みを伴う場合は、一度歯科医院で診てもらいましょう。
・口臭の発生
歯肉炎の原因となる歯周病菌は、口の中で剥がれた組織や白血球などのタンパク質を材料にして、口臭のもととなるガスを発生させます。それによって口内環境が悪くなり、歯周病菌が増殖しやすくなることで口臭も発生しやすくなります。
歯周炎の症状(歯周病中等度~重度)
・歯周ポケットの変化
プラークや歯石が付着した状態が続くと、歯と歯茎の間の「歯周ポケット」という溝が深くなります。そうすると、歯周ポケット内部に細菌が停滞し、増殖しやすくなります。歯周ポケット内部は、通常の歯ブラシが届きにくい場所です。深くなることで、さらに汚れを除去することが難しくなってしまいます。
・歯茎が下がる
歯周病が進行すると、歯を支える歯槽骨が徐々に溶けてしまいます。歯槽骨が溶けて本来の位置より下がると、歯茎も一緒に下がってくるため、歯が通常より長く見えることがあります。
・歯のグラつき
歯は歯槽骨によって支えられていますが、歯周病が進行すると歯槽骨は徐々に溶かされてしまいます。その結果、歯槽骨が歯をしっかりと支えることができなくなり、重症化すると歯がグラつくようになるのです。グラつきが大きくなると最終的には歯が抜け落ちてしまうおそれがあります。
・全身への影響
歯がぐらつくと、日常の食事が困難になることがあります。特に固い食べ物を噛む際には、痛みを感じることも少なくありません。この痛みや不快感は、食事の楽しさを大きく損なうだけでなく、咀嚼効率を低下させてしまうことで消化器官にも負担がかかりやすくなります。
歯肉炎を進行させないことが歯周病予防の鍵
歯肉炎をそのまま放置してしまうと、歯周病へ進行してしまいます。そのため、毎日の歯磨きが歯周病予防において非常に重要となります。
・ブラッシング
プラークは特に歯と歯茎の境目や歯と歯の間に残りやすいため、この部分を毎回しっかりと磨くことが大切です。歯ブラシは、歯2本ずつくらいの磨き幅で小刻みに、1箇所10回くらいを目安に動かしましょう。力をかけすぎると歯ブラシの毛が開いてしまうので、歯ブラシの毛が立つくらいの力加減でシャカシャカ音がなるように磨くと良いです。磨き残しのないように心がけることが、歯肉炎や歯周病の予防につながります。
・清掃補助用具の併用
歯ブラシだけでは、歯と歯の間など、歯ブラシの毛先が届かない部分にプラークが残りやすいです。そのため、デンタルフロスや歯間ブラシ、タフトブラシなどの清掃補助道具を併用していただくのもおすすめです。清掃補助用具を使用すると細かい部分までしっかりと磨くことができ、磨き残しを少なくすることができます。
ただし、使い方を間違ってしまうと、歯茎を傷つけてしまうことがあります。どんな清掃補助用具を選べばいいか、どう使えばいいか悩まれる場合は、一度歯科医院で相談したいただくと良いでしょう。
自宅でのケアと併せて定期的なクリーニングを
プラークなどの柔らかい汚れは歯ブラシで除去することができますが、歯石のように硬くこびりついた汚れや歯周ポケットの深い部分に蓄積した汚れは、ご自身でのケアだけでは除去することができません。これらの汚れは、歯科医院専用の機械を使用して洗浄しながら除去する必要があります。そのため、定期的に歯科医院を受診し、専門的なクリーニングを受けることをお勧めします。
定期的なクリーニングの際に、歯磨きの仕方や、おすすめの清掃補助用具について相談していただくと、より歯周病予防を意識した歯磨きを行いやすくなるでしょう。